皮肉だと、思う。
ありとあらゆる力の限り、血液を拒む性格を保ったまま、それでも
おのれの血の色に
凍りついたこと。
…….誰の血、と喘いだ事。
これは、だれの、血。
目にしたことのない色彩に、だれ、と呟かなければならない現実に
心が追いつかないこと。混乱。惑乱。吐き気。その凍え、
そして、ひとらしい色に戻されては、いる、こと。
最初の色に近しく、戻されてはいる。
「おまえにしてはめずらしい、不手際か」
「…..望んで、いなかっただろう。あんたはすでに」
似通う。元の色には、確かに。
それでも出逢った季節の色にも香りにも、還らないような気がして。
…..冬とはいえ、この血液の量は、おかしい。
小さな傷で? と 冷静を取り戻そうと思考する
「誰かを刺したことが無い以上」
「それはこちらの役目と言ったこと、都合よく忘れたか」
「…..頼んでいないと、思う」
「……これしきの血液量で済むと、思うか」
「そういう夢をあんたに望んでいない」
「誓ったことを忘れたか」
「忘れは、しない」
忘れては、いない。
ただ、俺の思う俺のままで、と。
俺がただしいと思う場所に在れればと心緩んでいた季節に
あんたは、東里に西里に、何を、してきた。
それと、この血臭の相入れなさに、ただただ
自分の双眸すら翳る心地がする。
吐き気。
くちびるに紛れ込む自分の血の味の、違和感。
そして、相手の衣服を染める、この有り得ない量の、血を、
待っていたのは銀灰。
………視て、いたのも、あんたか?
血染めの白い衣を、
見据えていたのは最初から、あんたのほうではなかったか、と
凍えていく白い吐息に
指先の、ぬるつきが、邪魔。
こういう光景に繋がらないよう、どれだけ、どれほど
…….互いに、ここには来るなと
「では、捨ておけ」
「なぜ」
出会わない間の、互いの話を。
別の地にいた頃の、あんた独自の歩みを。
茶を喫しながら聞ければと微笑んでいた季節を
どれほど壊滅的に無意味にする気だろうと、なかば驚嘆するように呆れる。
「今頃、気付いたと…..言うか。こちらの悪趣味を」
「こう、まで、とは」
滑稽。
こうまで響き合えないのは、どうして。
天を。
……..そう、今この時は双眸に映らない天を、いつだったか。
今この双眸に映り込んでもいない天上を、あんたまで見ると
泳ぐと、共に泳げるとあんたは、
一度、語ったのだろうに。
現在に至るまで、すべて約したことを違えてきたのは、一体どういう意図。
首を振る。
だれかのように。首をふる
「おなじ天を…….覚えて、いないだろうか」
この指先が、
常緑樹を求めた瞳が
ふるえた呼吸ひとつが、たとえば脚が、
いまだに春からの守護が届いていることは理解していて。落ち着いていくのはこちらの鼓動
薄らいでいく、血まみれの衣服に対する惑乱
「なぜ、あんたは……っ春天を目指せると言った?」
いまだに銀灰は、笑む。
それならば、なぜ。
あの”青”を見たことがある銀灰が、なぜ。冬に、
なぜ、他者の吹き消しを、あんただけが手放さない? 昨日も。今日も。あゆみの続く限り?
「他人に、興味は、ないのだと。あれほど……っ」
……無限の星々を。
そう、無数に、覚えきることすらできない数の、数える努力さえ笑って手放したくなる
あの圧倒的な数のきらめく星々を。どれだけ、
指先のふるえが、止まっている。
誰の祈りを消して誰の瞬きを消してすら
どれだけの骸を踏んで、
月を目立たせたい、あんたを、
こうして、月すら砕き得る、あんたを
「ゆる、さない」
星々の消失を、雲隠れを、月の欠けた宵の、
おのれの爪の変色を、
たぶん
ゆるせる日が、来ない。
ーーー
「Setsuki-en」1st et 2ndの「2nd」から
連載が完全に途切れ中断されていた浮島の一角から
23年ぶりに、切りだされました。
23年ぶりです。
わたしが20歳の時まったく予測していなかった文章となります.
続きは「3rd」サイト <有料化コンテンツ再装丁>へ
なおyd氏からは許可も文章も寄せられておりません。







