SS「西洋菓子と中華菓子の狭間」原作の十年後想定(hatoriが原作を散策しているだけです)<10 years>

「やあやあ翡翠くん」
「…..それほど気恥ずかしい名だろうか、もう飛蘭でいいのに」

「今日は顔色が悪くないみたいでよかった」
「それほど心配を、いつもかけているだろうか」
「やつれるからだよ。君が、わりとすぐに….」

傷だらけになりがちだから、と、控えめに呟く顔色が曇る。
まだ傷? と、言われなくてもおよそ案じられていることぐらいは伝わる。

「考えてみなよ。親しくなったから呼び捨てなんて、マクシムに何されるか分からない。さすがにね」
「翡翠も、君付けも、馴染まないんだ。

 だが…..呼び捨てが先例にならないのは助かる。呼び名を考えたい」

君好みのね、お茶の葉の総覧本を
輸入を頼まれていた分、もう届いたよ、と屈託なく笑う宝石商次男坊に
目を丸くする。

「あり……がとう。早くないだろうか。ずいぶん」
「最近、届くのに時間差が少ないんだ。遅延がないのって、いいことだろ?」

もっと気軽に笑ってくれたらいいのに、とむくれる様子に
「嘲笑え」と落差がありすぎないか。

「もちろん。よく、染まらずに…….」

この歳月を。
よく、これほど永い時間、あの男の性悪な思考回路に影響されずに。と
いっそ尊敬すら覚えそうになる。感動、と言い換えるべきか。

言わなくていいことばかり言いそうな
この内面を、ざわつきをどうしろと。

「読みごたえがありそうで、嬉しい、拝読する」
「良品だと思うよ。なんせ紅茶店そのものが出版してる」

着香茶の名前がずいぶん奥ゆかしくて詳細説明も正確そうだし
きっと君の好みに、いちばん合ってる本だよ、と、にこにこ笑う笑顔を
まぶしく感じそうになるのは

(多分、交換条件を持ちださない性格こそがまばゆいのだと思う)
そう思うことに。

目を伏せ、

「御礼申し上げる」
「? 急に、かた苦しい気が」
「こちら事情で、すまない。読むべき本があるのは非常に助かる」
「やっぱり堅苦しいな」

………….どうしろと。
わたしより頼りになるはず、と冷笑する進言が、それこそ薄氷を踏むような危うさを再度
もたらすとは知らなかった。

宝石商どの、と呼びかけることが一番
心に無理がない。それは良いとして
隠し通さなければならない苛立ちは、銀灰を壊滅的に信じられない心の向く先の話


あんたが、仕向けてきただろう。マクシミリアン
俺が、この目前の相手を支えに生きるよう。
家族のようと感じる相手が、この穏やかさに入れ替わるよう。


いずれ銀製品すら身につけられなくなったら、どう生きろというつもり。
この穏やかさがなくてはならない、と自覚されてからの
心の動きが、無駄に早い。

「翡翠くん?」
「癖かと、思う。そう呼びたいなら、その昔の呼び名で」

それでは間に合わない。
周囲の説得が。その現実にどう対処しようか、心の片隅で嘆息した

…….速すぎる。

銀糸を銀灰を俺が仰がなくなる速度と
その影響力が、はやすぎて。
街の主人を誰も信じていない、まち。それが西里であってはならないと決めてきたはずなのに。


「助かるんだ。確かに。あの男に茶化されながら思いがけない策ばかり打ちだされるより」
「また、あいつが何か問題でも…….」
「聡い、さすが」


銀糸など、いずれ探しもしなくなるような日が。姿が見えずとも案じない日が
ほんとうに近くなるような気がする。


そう仕向けられてひさしいことが、あんたの想定内と思うと
無性に腹立たしくてならない。
銀灰を頼れないことが、そもそも問題なのではない。街の主人を、治世を
あるべきよう整えなおさなければならないことが もう誰の目にも明らかであるからこそ


(………傾いているんだ。銀灰の遣り口に驚かなくなった俺自身が、たぶん)


騒乱の種が、他ならぬ、西里。
乱れの中心が他ならない、西の『龍』そのものになる

それでは、まるで、平定前の他市のようだろう
笑えないんだ。とっくに。


「マクシムから、新たな指輪が増えたんだろう? その割に睨むような顔をしてるけど」
「薬指とやらの指環を抜き取ってしまった以上は、話は、あの男と決着をつけてからに」
「……..苦労するね。あいつの気が済むよう、たぶん身につけておくだけでかまわないんだろうに」


「指環を、身につけないつもりか」
「心に沿わないものは、身につけない」


声がこわばる。
いい加減、次男坊殿の目前で心配をかけることを控えてくれ


あんたへ向かう基本の心の動きが「睨み」であること自体が不本意でならない。


「……だから、マクシムと君で選びに行くべきって言ってるのに」

大体ねえ、
悪趣味だ性悪だ好みに合わない趣味が悪いと散々聞かされ続けた挙句なんだから、
マクシムが勝手に選んで翡翠くんの好みに合うわけがなかった

君自身が納得しない限り
身につけない性格は、もう誰でもわかってたよ、と
心底呆れた様子に、飛は飛で笑顔が自然にこぼれだす

珍しく口数の多い金糸が

「居候どのが、唯一、傾かない。そういうことだろう」 

あんたが言いたかったのは。

「傾いていないのは貴石ではなく
「同じ結論だ」


花は龍を負う、文字通り。であれば、だれでもいい加減、わかるはず。
耐久性という、巷にありふれた単語を。

以前なら、に、と笑うことができていた銀灰の

薄い薄い笑みも
……….薄くなる、笑み。 それこそ潮時なのではと。諌めなければならない己の性分を、こそ、呪う。

「選びに行くか。勧めに従って、指輪を」
「痕がかならず残る。俺の指には向かない。それなら、居候どのにあつらえてほしい」


安定性とは、むしろ誰にも左右されないこと。 そう龍と花に知られているばかりの、 今季。

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