見つめてきた街
個人的に20年ちかく
まばたきしない瞳で見つめてきた街を みる。
これほどの歳月のなかとあらば
移り変わりも避けられず
羽鳥が大好きだったお店の、いくつかは、もう、この世のどこにも存在しません。
例えば小さな紅茶屋の
隠れに隠れた階段のうえ
黄金色のスプーンと
変拍子BGMと
代替品のない手焼きスイーツ、
ホワイトチョコとラズベリージャムの相性
マーガリンが入らないキッシュに
えだまめのスープが消えたことは
すこしさみしい
それでも、この街に
暖かい手触りの記憶がいくつも落ちているのです
いつか大切な大切な人たちを
直接ご案内できる機会があるのかもしれないし
異国情緒と海の香り
老紳士のワインを愛する姿と、優しい山の近さがある
この街を
きっと私は愛しいと思っている
猫の尻尾は、静かに揺れる。
またきますと告げるように。
ひとめぐり10年の年月をありがとう。
山猫は これからの歳月
dawを進めたい。
ここまでの10年とは違う存在たちとも そろそろ交感したい。
山猫は
ひとつずつの物語を
確実に完結させてゆきたい。
「ひと」が輝くための鼓動
「言葉」が熱を持つためのドレミ
寄せる波を ひろげるためのPad
どこにもない音楽を
手繰り寄せる磁石を、わたしの裡に、だいぶ、ちゃんと信じているから。
dawを進めるためには、拠点としての神戸の街は、今は、だいぶ違う。
たくさんのLIVEと両立させられるほど、まだ猫の瞳は、多くを追えない。
だから猫の尻尾は
ほんの少しだけ淋しい。
また来るから。
帰って来るから
素敵な美味しさにも会えると知っているから。
ときどき抜け殻になっている私を
懐深く、待っていてくれる街だと信じて。
わたしは音を取りだしたい、
水の底に沈めすぎて
取り出せないかもしれないほどの深さまで
潜らなければ見えない ゆらめている旋律たちを
取り出して
風に当ててやりたい。
もう陽射しにも当ててやりたい。
山道の途中から
ひとつずつの楽曲が。
どうか
その曲への愛を得られますように。
誰かの胸へ、移る、熱でありますように。
てのひらの中の天然石を、あたためる、満月。